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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)3065号 判決

国籍 アメリカ合衆国

東京都港区南青山四丁目一七番一一号

控訴人

ジミー・テーラー

右訴訟代理人

町田健次

外二名

国籍 アメリカ合衆国

カリフオルニア州サンヨゼ市サラトガ街区u二〇九―七一〇s

被控訴人

タカオ・ヤマダ

右訴訟代理人

門上千恵子

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金三〇〇万円、及び、これに対する昭和四四年八月二〇日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

この判決は、主文第二項につき被控訴人において金五〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人のその余の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実に関する主張及び証拠関係は次に附加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。〈以下略〉

理由

一職権をもつて本件の裁判権及び準拠法について検討する。

1 まず裁判権(国際裁判管轄権)についてみるに、〈証拠〉を総合すると、被控訴人はアメリカ合衆国の国籍を有し現在アメリカのカリフオルニア州に居住し他の女性と一九七〇年一二月に再び婚姻してそこに家庭をもち、軍需物資販売業を営んでいることが認められ、〈証拠〉によると、控訴人はアメリカ合衆国の国籍を有し、一九三八年以後引続き日本に居住し家庭をもつて輸出入事業の会社を経営していることが認められるから、被控訴人が日本に来たつて自ら日本に住所を有し日本で事業を営む控訴人に対し本件訴を提起するにつき日本の裁判所が裁判権を有することは問題ない(なおアメリカにおける州際私法に関する第二リステートメントは、同一〇条により国際間でも通用されるとするところ、被控訴人については、同二四条の人に対する裁判管轄権の一般原則二七条(自然人に対する裁判管轄権の基礎)(a)(住所)(f)(訴訟への出頭)、三四条(原告としての出頭)により、控訴人については、同二四条、二七条(b)(住所)、二九条(住所)により、わが国に国際裁判管轄権があることになる。)。

2 準拠法についてみるのに、本件は不法行為による損害賠償債権を目的とするところ、その不法行為の発生した地は日本であること被控訴人の主張自体から明らかであるから法例一一条により民法によるべきこととなる(なお右第二リステートメント六条(1)は「裁判所は、憲法の範囲内で、準拠法となる直接的な各州の制定法に従う。」とし、同一四五条(1)は「不法行為の争点に関する当事者の権利義務は、六条に定めた原則の下で、その争点に関し、当事者及び救済につき最も重要な関係を有する州の地域法によつて判断される。」とし同一四六条(人的侵害)はこれを細則化した一場合で、同一〇条により右「州」を「国」と読み替えられるから、本件のような不法行為については、アメリカ法上も、法廷地法であるわが国の法律が適用されることになる)。

二本件の実体についての当裁判所の判断は、結論において、控訴人が被控訴人に対し不法行為による損害賠償として慰藉料を支払う義務がある点では原判決の判断と同一であり、その慰藉料額の認容の限度においてこれと判断を異にし、その理由については、原判決理由一ないし四及び五の冒頭から一五行目「ことが認められる」までの事実認定部分についての判断は、次に附加訂正するほかこれと同一であるから、これをここに引用する。

三〈以下附加訂正部分略〉

四慰藉料額について

前記引用の原判決認定の事実、前記各事実によると、控訴人はスミエの使用者で直接の上司の地位にあることを利用してスミエに近づきスミエと性的関係を持続して、約一八年間平穏に過した部下の家庭を破壊し、被控訴人をして離婚するのやむなきにいたらせたもので、この控訴人の責任は通常の場合よりも重いこと、控訴人の資産収入は大であるのに対し被控訴人のそれは殆んどみるべきものがないことなどからみると、慰藉料額は大であるとみることもできないわけではない。しかし、他方、スミエと控訴人との性的関係が始まつてから、被控訴人がスミエの提訴によりメキシコ国チワワ州でされた離婚判決(これはアメリカ合衆国でも承認されることはないと解される。前記第二リステートメント九二条参照)による離婚に自らの意思で同意するにいたるまで、約一年の短期間であり、その間その性的関係は断続的で同居したものではなく、被控訴人はスミエに対し婚姻関係の回復の努力はしたものの、控訴人に対してはスミエとの関係を解消させるための種々の努力をせず、事態は悪化の一途を辿り、短期間内に離婚の決意をするにいたつたもので、その根底には被控訴人とスミエとの性格の不一致もみられるなどの点で被控訴人の側にも一半の責任があることは否定し難い。そして約一年後に被控訴人は他の女性と婚姻して現在一応の平安を得ていることも考慮に値しよう。本件はアメリカ人相互の紛争ではあるが、双方とも長年の間日本の社会で生活しその風俗習慣にも理解を持つことが期待される者たちであるから、わが国の通常の場合に準じて慰藉料額を定めるべきである。これらの諸事情を総合考慮すると、控訴人が被控訴人に対し支払うべき慰藉料額は金三〇〇万円をもつて相当とする。

五むすび

以上のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し、前記不法行為に基づく慰藉料として、金三〇〇万円、及び、これに対する不法行為後の昭和四四年八月二〇日(本件訴状送達の翌日)から支払ずみまで年五分の遅延損害金を支払う義務を負う。被控訴人の本訴請求は右の範囲で理由がありこれを認容すべく、その余は失当として棄却すべく、これと異なる原判決を右の限度で変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(浅沼武 蕪山厳 高木積夫)

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